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Author : Kazuhiro Hara
Author : Kazuhiro Hara
Tue Apr 02 2024

城の崎にての小さな本とレスポンシブの話

城の崎にての小さな本の写真。ライターとの比較

3月頭、城崎温泉ワーケーション合宿に行った時 のこと。午後ちょっと気分転換がてら「きのいえ」の近くの 城崎文芸館 KINOBUN へ行った。すごく雪が降っていて、通りには人もほとんどいなくて風情があった。

興味深い展示はいろいろとあったが、最も興味を惹かれたのは、入り口近くのミュージアムショップに置いてあった小さなカバー付きの書籍。

志賀直哉は短編「城の崎にて」を執筆している。「山の手線の電車に蹴飛ばされて怪我をした。」という衝撃的な展開からこの短編は始まる。その養生に城崎温泉に来たという物語だ。売られていた書籍は短編とその注釈本という2つの小さな冊子で構成されている。

大きさは写真のとおりで、ライターの高さと冊子の幅がそれほど変わらないことから小ささがわかる。ちょうど iPhone 12 mini より一回り小さいくらいだ。

本編の他についてくる注釈つきの解説本は、むしろこっちが本編なのではと思うくらいの厚さで、100ページ近くある。中にはこの短編をこれでもかと当時の状況や解釈などを加えた文章がシンプルな挿絵とセットで掲載されている。

いわゆる豆本は文字自体も小さくなっているから実際は大きな本に近い感じだけど、この冊子は文字量も1ページあたり少なく、文庫本を文字サイズをそのままで小さくしたような印象を受ける。本編の1ページあたりの行数は10行しかない。その上全部で25ページもないくらいの分量。

Web 制作者的に言えば、この大きさの誌面に対応したレスポンシブなデザインが施されたような状態なのである。

スマートフォンは単体で青空文庫や Kindle の電子書籍など無限に近いコンテンツを体験できる。改めて手に取って思うのは、短編のみで一つの冊子というのはすごく贅沢なことではないかということだ。結構余白多めでレイアウトされており、少ないページ数ながらなかなかに充実した読書体験を与えてくれる。

城崎温泉に行くとわかるが、この小さな短編が街のいたるところに登場する。街の豊かな観光資源とおそらくかなりの印象を占めているであろう志賀直哉の短編サイズのギャップは本当に感心する。

この小さな短編には温泉が登場するが、その温泉は今も街に存在し、実際につかることができる。短編を読んだ後に湯につかれば楽しみも倍増だろうと思う。

小さなコンテンツと、それを大事にする人びと、その周りで回る経済圏。潜在的には小さなレスポンシブ Web サイトだってそういう力を持っているに違いないっていうことを改めて感じさせてくれる書籍だった。

LifeBook

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